れぐるすの丘

読書感想文

Chatter を読みました

どうしてあのときあんなことを言ってしまったんだ?なぜ自分の行いはいつもネガティブな方向に働く?いつもこうだ。これから先もずっとこの心配事と向き合って生きていかなければならないのか?————

夜ベッドに入ると過去の失敗や将来への不安が呼び起こされ、まるで諳んじているかのように思考の負のスパイラルから抜け出せなくなり、眠れず、そしてまた翌日のパフォーマンスが悪くなる…… といった経験が過去に何回もあった。

本書によると、「内省」という人類に備えられた素晴らしい能力が、循環するネガティブな感情と思考により呪いに変わり、思考によって思考が救われなくなる状態、それを引き起こすなにかを「チャッター」と呼び、このチャッターをうまく対処し人生をより豊かにする方法や事例が研究結果をもとにまとめられている。

一言で表してしまえば「物は考えよう」だとか「リフレーミング」といった類の話である。

ただ、ネガティブな思考に陥っているときはこれらの難易度が鬼になるのは自分の経験からも明らかで、そうした状況から抜け出すヒントとツールを提供してくれる。

数ある中のひとつ、自分の思考と距離をおいた対話について見てみると、自分を名前で呼ぶ、「わたし」ではなく「あなた」と呼ぶ、友人と会話している想定で話す……などによって、自分の思考を俯瞰して見ることができ冷静さを取り戻せるという。

また、個人の内面の話だけではなく自然の効能などについても話されている。たとえばストレスを感じるとキャンプに行ってひたすら焚き火を眺めたくなったり、威容を放つダムを目の当たりにして自分のちっぽけさを認めたりするのは非常に理にかなっているようだ。

個人的にとても良かったのは、本書は成功した人による生存者バイアスの押し付けではなく、数多くの研究結果から人間の普遍的な特性に着目し、多くの人に効果がある方法が書かれていることだ。研究結果に裏付けされた説得力は大きなプラセボとなる (プラセボの効能については本書にも書かれている)。それはこの人がすごかったからできただけだろう、という天邪鬼が通用しないのがいい。

ストレスや苦難に直面してチャッターが顕現したとき、(実際に効果があるかどうかはさておき) これらのツールや対処法を知っているだけでかなり気が楽になるだろう。もちろんそうした状態に陥らないに越したことはないが、苦難を乗り越えたほうが経験値が美味しい、くらいのポジティブさを維持していきたいものだ。